グッと身近に来る日本史

読書でタイムトラベラー/時空を超えた世界へと旅立つための書評ブログ

【黒船来航】で欧米社会の日本への関心は?

 幕末に日本を訪れたドイツ人、ルドルフ・リンダウは『スイス領事の見た幕末日本』(原題:日本周遊旅行)の中で、当時の日本人の暮らしぶりを、豊かな表現で描写しています。今回は、これを読みながら、幕末にタイムスリップしていきましょう。

 

 

 リンダウはプロシア生まれのドイツ人ですが、スイスの時計組合を中心としたスイス通商調査派遣隊の長として、1859年に初来日します。安政6年、ちょうど井伊大老による安政の大獄が始まった頃です。

 

 リンダウはその後、駐日スイス領事となりましたが、もともと生粋の職業外交官ではなく、さらにスイスという、肉食系の欧米列強諸国とは距離を置く国という事もあって、本書は政治的な側面より、日本社会の観察に優れていると言えます。リンダウ自身、別に多くの著作を残していることから、文筆家とも言える人物です。

 

 本書のまえがきでリンダウはまず、この時代の欧米での日本に対する関心について、こう述べています。

 

 ヨーロッパが極東に寄せる関心は、ここ数年来、奇妙と思われる程に増大してきている。つい四半世紀前まで、シナと日本はわれわれヨーロッパ人には殆ど未知の国であった。(中略)学問というこの上なく厳しい道を歩むことになった幾人かの学者以外だれも、そんな遠くにある国で起こっていることなど、たいして気にはしなかったのである。

 

  この本が書かれたのは1863年から64年のことですから、その「四半世紀前」となると1840年あたり。ちょうど蒸気船が大洋(大西洋)を横断し始めた頃です。

 

 蒸気汽船による航海は極東の社会に対するヨーロッパの立場を完全に変えてしまった。それはいわばわれわれヨーロッパ人を、あの偉大で神秘的な国の門口に立たせることになった。これらの国で揺れ動いている事件は、もはや学者達の好奇心を呼び起こすものではなく、政治家達の気遣いの的となってきているのである。これら新しい世代にとって、シナと日本で起こっていることを知らぬことは許されぬことである。これら二つの帝国の現代史は、われわれヨーロッパ人の歴史の一部となって来ているのである。

 

 以前から帆船が世界を航行していましたが、この時代になって蒸気船が大洋を越えて航行し始め、世界がより一体化し始めたことが、これを読むと伝わってきます。ペリーの来航と日本の開国もこうした国際情勢の変化による必然と言えるでしょう。

 

 まえがきの最後にリンダウは欧米の文明に触れた日本とシナの今後について、こう述べています。

 

これらの国にあっては、外国人の到来は深刻な動揺を与えたのである。それらは私的な生活ともども公的な生活にも深い傷をもたらしたのであり、それが原因となって国全体に広まっていく混乱は、そう遠くない日にこの両国を完全な改革に導くことになろう。

 

  繰り返しますが、この本が書かれたのは1863年から64年のことなので、日本では文久3年にあたります。薩英戦争や8月18日の政変で七卿が都落ちした頃で、幕末もいよいよ後半戦、維新へ向けた動乱の時代が始まった頃です。

 

 この段階ですでにリンダウは「完全な改革」(明治維新=革命と言ってもいいでしょう)不可避とみながら、変わりゆく日本社会を暖かな目で観察しています。具体的には、次回!