グッと身近に来る日本史

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『歴史とは何か』を読んで考える歴史哲学

 「歴史哲学」とはご存じでしょうか?。歴史とは何かを考える学問領域で、古くから歴史家の間で論争が起きてきました。

 

 芸のない説明で恐縮ですが、「哲学」というくらいですから、深入りすれば多くの説明を要し、簡潔にしようとすれば、これくらい簡単になってしまいます。

 

 今回のシリーズでは、この分野で名著と言われる『歴史とは何か』(E.H.カー著、清水幾太郎訳、岩波書店刊)の中から、歴史家の名言の数々を見ていきましょう。

 

 

 

 本書は1962年に初版が発行されて以来、2017年の時点で87刷まで記録しているのを見ればわかる通り、半世紀以上前に書かれた古い本ですが、全く古さを感じさせません。歴史家はもちろん、歴史を学ぶ学生さんたちにも必須の図書であることがわかります。

 

 著者のE.H.カーは、1892年生まれの英国人。ケンブリッジ大学を卒業後、戦前は外交官として活躍。第二次大戦に入る頃から大学に籍を移し、国際政治や歴史を研究、1982年に亡くなりました。

 

 本書は、母校のケンブリッジ大学で1961年に連続講演として話した内容をもとに一冊にまとめたものです。

 

 もともと学生さん向けに講義したものとはいえ、正直、かなり難解で、すべてを理解することはとてもできないでしょう。それでも、理解できる部分だけでもタメにはなると思います。

 

 本書でまず注目したいのが、翻訳を担当した清水幾太郎氏による「はしがき」です。清水氏は本文中でカーが繰り返し使っている

 

 歴史は、現在と過去との対話である

 

という言葉を引用し、これをもって、カーの歴史哲学を貫く精神である、としています。

 

 これには少し説明が要ります。清水氏の言を借りれば、

 

 過去は、過去ゆえに問題となるのではなく、私たちが生きる現在にとっての意味のゆえに問題となるのであり、他方、現在というものの意味は、孤立した現在においてではなく、過去との関係を通じて明らかになるものである。したがって、時々刻々、現在が未来に食い込むにつれて、過去はその姿を新しくし、その意味を変じて行く。

 

 つまり、カーの言う「歴史は、現在と過去との対話である」とは、歴史は時代とともに変わっていく、ということを意味しているのです。

 

 私はこれを読んで、冒頭からグッときてしまいました。

 

 私自身、これまで習ってきた歴史に違和感を感じ、自分で歴史を調べ直しながら、「もうそろそろ新しい歴史観に変えた方がいいんじゃないか」と感じ始めています。その成果を断片的にでもご紹介するというのがこのサイトを始めたきっかけです。

 

 しかし、普通に考えれば、過去は変わらないものです。

 

 「本当に歴史は変わるのだろうか」「変えていいんだろうか」--。そんな疑問に対する答えを探るべく、調べ始めたのが歴史哲学でした。

 

 そんな問題意識から出会った本書の冒頭でいきなり、カーや清水氏から「それでいいんだよ」と答えを言われたようで、びっくりするとともに、「やっぱり、そうだよね」と共感を覚えました。

 

  現在、歴史関連の本では、「新事実発掘」の文字が躍り、競争と言えるような状況にあります。それはそれでいつの時代も大切な作業だとは思います。ただ、今世紀に入り、時代が大きく変化してきました。「新事実」のレベルを超越した、新しい時代に合った「新史観」がそろそろ求められているような気がします。