グッと身近に来る日本史

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歴史哲学-歴史を研究する前に歴史家を研究せよ

 『歴史とは何か』(E.H.カー著、清水幾太郎訳、岩波書店刊)を読んで歴史を哲学するシリーズ3回目。今回は、歴史家自身が「時代の子」であるいう視点から歴史を考えていきます。

 

 

 

 前回の、すべての歴史は「現代史」である、の中でもご説明しましたが、カーは歴史そのものだけでなく、書き手である歴史家の存在を重視しています。

 

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それゆえ、

 

 歴史を研究する前に、歴史家を研究してください

 

と言っています。

 

 さらには、一歩進めて

 

 歴史家を研究する前に、歴史家の歴史的および社会的環境を研究してください

 

とも言っています。

 

  カーがこう言うのも、歴史家はその生きた時代の影響を強く受けている、とみているからです。

 

 歴史家は一人の個人であります。それと同時に、他の多くの個人と同様、彼はまた一個の社会現象であって、彼の属する社会の産物であると同時に、その社会の意識的あるいは無意識的なスポークスマンであって、こういう資格において、彼は歴史的過去の事実に近づいて行くのです。

 

  歴史家は歴史の一部なのです。現に歴史家が立っている行列中の地点が、過去に対する彼の視角を決定するのです。

 

 そう言われてみて、改めて日本の歴史家を見てみると、たしかにそうした傾向が読み取れます。

 

 幕末史に限っても、服部之総、奈良本辰也、そしてこの時代を舞台とした多くの歴史小説を手がけた司馬遼太郎氏などなど--。私はいずれの方も高く評価していますが、やはり20世紀を生きた歴史家であって、昭和時代、戦前の軍国主義から戦後の高度成長という時代を、肯定的にとらえるにせよ、否定的にとらえるにせよ、その影響を強く受けていると言えます。

 

 それに気づかされると。そろそろ「21世紀の歴史家」の登場が待たれるところです。